
履歴書の職歴欄を書く際、退職理由は書くべきなのでしょうか。また、その際は「一身上の都合」としても大丈夫なのでしょうか。退職理由を書かなければならない場合や書いたほうがいい場合などについて、退職理由の表記の仕方も含めて、社会保険労務士の岡佳伸氏、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に、解説いただきました。
履歴書に退職理由は書かないケースが一般的
一般的に、履歴書に退職理由を詳しく記載する必要はありません。多くの場合、「一身上の都合により」と簡潔にまとめるだけでよいでしょう。
ただし、解雇による退職の場合は、その事実を記入しましょう。また、後述するように退職理由を明記すべきケースや、書いたほうがよいケースなどもあるため、自分のケースがどのパターンとなるのかを見極める必要があるでしょう。
なお、退職理由を記載する場合、内容や表現によっては現職(または前職)に対する批判と受け取られ、書類選考の段階でマイナスの印象を与えてしまう恐れがあります。例えば、「スキルアップの機会が限られていた」「社風が合わなかった」「労働時間が長すぎた」「年収に不満があった」など、事実であってもネガティブな要素のみを強調すると、伝えたい背景や事情が適切に伝わりにくくなります。
この後、退職理由を明記すべきケースについてご紹介しますが、該当しない場合は履歴書や職務経歴書に記載する必要はないと考えてよいでしょう。
<履歴書に退職理由を書くときの一般的な書き方例>

自己都合なら「一身上の都合により退職」でも問題ない
自己都合退職とは、文字通り、自身の事情によって退職を申し出るケースです。例えば、キャリアチェンジを目的とした退職や、結婚・育児・介護など家庭の事情による退職がこれに該当します。家庭の事情などプライベートな事柄を書きたくない場合は、「一身上の都合により退職」でも問題ありません。退職理由を伝えたい場合は、後述する書き方例を参考に、理由を書くとよいでしょう。
自己都合により退職した場合の履歴書の書き方例
前述の通り、労働者が自ら退職を希望した場合は「自己都合退職」となるため、履歴書には「退職」または「一身上の都合により退職」と記載します。
<書き方例>

契約社員・派遣社員の場合の履歴書の書き方例
契約社員や派遣社員などの有期雇用において、契約期間が満了し退職する場合は、「契約期間満了により退職」と記載します。なお、契約期間の途中で本人の意思により退職した場合は自己都合退職となります。一方、企業側の判断で契約が途中終了した場合は、会社都合退職に該当します。
<書き方例>

会社都合の退職理由の履歴書の書き方
会社都合の退職理由を履歴書に書くときの書き方を説明します。
会社都合の退職理由の書き方例
会社都合退職とは、倒産や業績悪化による事業縮小など、企業の事情により退職するケースを指します。履歴書には「会社都合により退職」と記載するのが一般的です。
<書き方例>

会社都合と記載しても大丈夫?
会社都合退職は、大きく分けて「解雇など、企業側の都合による退職」「企業の事情により、労働者がやむを得ず退職を選択した場合」の2つのケースが考えられます。これらのケースに該当する場合は、「会社都合により退職」と記載して問題ないでしょう。
入社後、短期間で退職した場合、自己都合退職だと「入社してもすぐに転職してしまうのではないか」と採用担当者に懸念を持たれることもあるでしょう。しかし、倒産や事業撤退など、やむを得ない会社都合による退職であれば、在籍期間の短さが問題視されにくい場合もあります。したがって、倒産や事業規模縮小など自身に非がない理由で企業が人員削減を行うための「整理解雇」の場合は、背景が伝わるようにその旨を記載しましょう。
「一身上の都合により退職」以外に退職理由を書きたい場合の様々なパターン
「一身上の都合により退職」とせずに退職理由を書きたい場合の書き方を紹介します。いずれも、退職理由を伝えたい場合に限られますので、無理に退職理由を書く必要はないでしょう。
家庭の事情により退職
このケースは「一身上の都合により退職」に該当しているため、プライベートな事情を知らせたくない場合など、具体的な理由を書かずに「一身上の都合により退職」としておいても問題ありません。退職理由を伝えたい場合は、理由を簡潔に書くとよいでしょう。
「家庭の事情」に該当するケースとしては、「結婚に伴い退職」「転居に伴い退職」「病気治療のため退職」「親の介護のため退職」などが考えられます。
<書き方例>

会社の業績悪化に伴う退職
会社の業績悪化を感じて、会社の将来性や自身のキャリア形成、収入やスキルアップの遅滞などに不安が生じたり、顧客に提供するサービスレベルや顧客満足度の低下、やりがいの低減などが懸念されたりした場合は、会社から特段の働きかけがなくとも、自身の判断で退職を決断することがあるかもしれません。その場合は、その背景が伝わるように表記するとよいでしょう。
<書き方例>

会社の事業終了に伴う退職
自身が属する事業が事業終了になった場合、同じ会社の別事業に異動して雇用が継続されたり、グループ会社等に転籍したり、合併・吸収された先の企業で雇用継続されたりといった選択肢が考えられますが、そうした提案を辞退して退職する場合は、自己都合退職となる可能性があるでしょう。
<書き方例>

キャリアチェンジのため退職
このケースは「家庭の事情により退職」と同様、具体的な理由を書かずに「一身上の都合により退職」としておいても問題ないでしょう。ただし、キャリアチェンジなどのような前向きな理由であれば、退職理由を伝えることでアピールにつながることも期待できるので、理由を書くことをお勧めします。
「キャリアチェンジのため退職」に該当するケースとしては、「○○領域でのスキルの幅を広げるため退職」「キャリアの方向性を見直し退職」「専門性を高めるため退職」「○○業界への転身を目指し退職」「企画職への転向を志向し退職」「○○分野での経験を活かすため退職」「新たなスキル習得のため退職」「○○資格取得のため退職」といったものが考えられます。
<書き方例>

配偶者の転勤に伴い退職
このケースも「家庭の事情により退職」と同様、具体的な理由を書かずに「一身上の都合により退職」としておいても問題ありません。ただし、企業に退職理由を伝えたい場合は、簡潔に理由を書くとよいでしょう。
<書き方例>

社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。